離婚、不貞における損害賠償の請求

1 離婚、不貞における損害賠償の請求とは

婚姻関係は、一夫一婦制が原則であり、対等な男女が互いに貞操義務を負っている。不貞行為によってこの貞操義務を要求する権利を侵害した場合に、慰謝料の問題が生じる。慰謝料とは精神的損害、精神的苦痛を慰謝するものと位置づけられている。精神的苦痛は金銭では埋められないと思われる向きもおありであろうが、そこはそれ、最低限、苦痛を補うものとしての金銭支払いが予定されている。したがって、精神的苦痛が大きければ大きいほど、慰謝料の額が高いことになる。

ところが精神的苦痛は苦痛を受ける人により様々だから、その苦痛の大きさの客観的な判定は難しい。けれどもある程度の指標により、公平性、統一性を保つように判断されてきた。この最終的な判断を担保するのは、裁判所であり、それが示されるのが判決だということになる。仮に訴えを起こし、判決の前に和解で終わる場合でも、通常の場合(芸能人等特に高額な場合を除き)、判決だったらこの程度の額であるということが前提となって、双方が合意できる額が模索される。協議離婚での慰謝料も、裁判で得られるであろう額がひとつの目安になるという意味で同様である。

 

2 裁判での慰謝料請求は

というわけで、裁判での離婚、不貞行為の慰謝料が問題になるけれども、それはどのように決められているのだろうか。

裁判所が統一的な基準をあらかじめ示しているわけではない。したがって、それまでに出されている判決を調べて、大体裁判所はこのように考えているらしいと推測するほかない。その場合、個々の事件は様々だから、いろいろな条件を考慮して結果を検討する必要がある。その条件とは、①婚姻年数、②離婚までの経過、③有責性、④当事者の経済状態、等であり、しかもその他一切を総合的に判断すると言われている。

 

しかし、実際の協議離婚の場では、離婚の慰謝料は財産分与の金額とまとめて、離婚に伴う金銭問題というくくりで扱われやすくなっている。ひとつには慰謝料という名目だと、どちらかの有責性がはっきりしてしまうため、支払うべき当事者が拒否反応を示し、その結果財産分与と一緒にした形式を取ってしまうことがある。裁判所は、両者を分けて判断する建前ではあるが、客観的に判断しやすい財産分与と異なり、判断の難しい要素のある慰謝料については、全体的な金銭の移動を重視し、やはりその補完的なものとして慰謝料を判断するという傾向がないわけではない。

 

3 不貞行為とは

慰謝料は、精神的損害に対する慰藉を意味するものなので、不法行為によって精神的損害が与えられた場合に問題となる。不法行為というわけだから、違法行為による侵害行為があることが前提で、この有責性のある行為には、不貞行為、暴力(物理的・精神的・経済的)、悪意の遺棄、過度な浪費・借金、性的交渉の拒否などが該当する。

 

不貞行為は、この有責性ある行為の典型的なものの一つで、婚姻における貞操義務を侵害したものである。それでは、貞操義務を侵害したと言える不貞行為とは具体的には何を指すのだろうか。

判例は、不貞行為とは、配偶者以外の異性と反復継続して肉体関係を結ぶこととしている。したがって、愛人との性交渉がこれにあたることは問題がない。では、同僚に誘われて、夫がいわゆる風俗に一回だけ行ったという場合はどうだろうか。不貞行為が成立するためには、性交渉が反復継続して行われることが必要だから、本当に一回だけであれば、不貞行為とはならない。また、妻の方も、それだけで不貞行為による慰謝料を請求したり、離婚を請求したりはしないだろう。問題は、一回だけとは夫が言っているだけであり、本当は特定の人と継続して肉体関係がある場合である。それは立証の問題となるから、いかに複数の継続した関係の証拠を集めることができるかというステージになる。また、最終的な性交はなくても、性交類似の性的関係を持った場合は直接の不貞行為とはならなくても、不貞類似行為として貞操義務を侵害した行為となり、慰謝料の対象となるし、婚姻を継続しがたい重大な事由として離婚原因となる。

 

4 慰謝料を請求する相手とは

それでは、慰謝料とは誰に対して請求するものであろうか。

勿論、不貞行為の相手に請求したいのが一番かもしれない。けれども、この慰謝料は不貞行為を行った配偶者にも請求できるのである。

つまり、この不貞行為とは、配偶者,たとえば夫と第三者とが共同して妻に対して不法行為を行ったと構成するものなのである。これを共同不法行為という。そうして、配偶者と第三者の立場は妻に対して不真正連帯債務を負う関係だとされている。どういうことかというと、仮にこの共同不法行為の不貞行為によって受けた精神的損害を慰謝する額が200万円だとする。妻は、自分の配偶者にも200万円を請求できるし、第三者にも200万円を請求する権利をもつことになる。また、自分の配偶者に50万円、第三者に150万円を請求することもできる。しかし、最終的に妻が得ることができる金額は200万円を超えることはできない。400万円を獲得することはできない。通常は、自分の配偶者に請求するよりも、憎い相手である第三者に200万円を請求することが多いだろう。

 

5 離婚慰謝料と離婚原因慰謝料

上の例で、仮に妻が夫の不貞相手から慰謝料を200万円獲得したあとに、夫と離婚するとする。妻は、夫に対し、財産分与のほかにさらに慰謝料を請求できるだろうか。

上でみたように、妻は夫にも夫の不貞相手に対しても200万円を請求できるけれども、400万円を得ることはできないということだった。それでは夫にはもう慰謝料は請求できないのだろうか。

  ここでは、離婚原因慰謝料と離婚自体慰謝料という概念が問題になる。離婚原因慰謝料とは、離婚を招いた個々の有責行為から生じる精神的苦痛の慰藉料をいい、離婚自体慰謝料とは離婚それ自体から生じる精神的苦痛の慰謝料をいう。妻が先に得た200万円は、夫の不貞行為から生じた精神的苦痛の慰謝料である。つまりこれは離婚原因慰謝料といえる。しかし、妻に離婚自体慰謝料を請求する余地がまだ存在していれば、夫からその慰謝料をもらえる可能性があるのである。

それでは、離婚自体慰謝料とは何であろうか。それは、ひらたく言うと、妻の座を手放さざるを得なくなったことに対する精神的損害に対するものである。日本の社会は、まだまだ離婚に対して厳しい目を向ける傾向があり、個人的にも、社会的にも、離婚をしたことによるダメージは厳然と存在している。中には離婚したことを隠しているケースもあるであろう。それらは、離婚したという事実のもつ重さを表しており、離婚を経験せざるを得なくなった妻の精神的負担を表している。その妻の精神的損害を慰謝しようというものである。

ただ、その慰謝料額については、その額自体の確たるスケールがあるわけではなく、先に得た200万円が妻の婚姻年数や年齢に勘案して低いと考えられるときは、さらに離婚自体慰謝料として慰謝料の上乗せがなされることが多いといえる。

 

6 離婚裁判の提訴

さて、離婚の協議が進展せず、調停を申し立てても不調となった場合、離婚の裁判を提起することになる。離婚調停は、相手方居住地の家庭裁判所に申し立てることになるが、離婚裁判は自分の居住地の家庭裁判所にも提訴できる。この管轄の点については、全体の方針を考えるときに頭のすみにおいておく必要がある。双方とも同じ管轄内に居住しているのであれば問題はないが、こちらは東京なのに、相手方は九州の実家に帰ってしまっているという場合などは、調停は九州の家庭裁判所へ申し立てなくてはならない。争いが長期になる可能性が高いのであれば、交通費等の関係もあり、調停はさっさと切り上げて(語弊があるがテクニックが必要だ。)東京で本訴を起こすように最初から組み立てる必要がある。

 

7 立証責任と証拠

離婚裁判を提起する場合、原告には立証責任があるから、不貞行為の証拠を集めておく必要がある。仮に夫が浮気をし、妻がそれに耐えきれずに離婚裁判を提起したとする。

(1)  不貞行為の一番決定的な証拠は、夫とその相手Aとが夜ホテル等に入り、翌朝ホテル等から一緒に出てきた写真を撮ることだ。それが一回限りでは証拠力は弱いともいえるが、その他の関連証拠も合わせて、一本となるだろう。その写真を撮るには、前提として夫またはAまたは双方の尾行が必要となるので、それらは調査会社に頼むことになろうが、調査料は安くはない上に、仕事内容が良心的ではない業者も散見されるので、調査を頼む上では吟味が大切となるかもしれない。

(2)  昨今では、PCやスマホや携帯電話の文面の写真を提出することも多くなった。しかし、夫の方も逆に注意をするようになったので、必ずしも有利な証拠が確保できるとは限らなくなった。

(3)  あらかじめ録音テープを用意しておき、夫との会話の中で、不貞を認めさせることができれば、それを反訳してテープとともに証拠として提出しよう。

(4)  夫の親しい友人の中で、事情を知っており、妻の味方になってくれる人がいれば、

陳述書を書いてもらい、証拠とする。その人が裁判所で証人尋問に立ってくれればベターだが、負担も大きいのでそこまではお願いできないことが多いだろう。妻の親しい友人で事情を知っている人がいれば、その人の陳述書をも提出する。ただ、妻側の友人ということでは、その陳述書の証拠力が低くなる場合もあるが、もっとも内容次第ではある。

(5)  ホテルの領収書やクレジットカードの明細なども役に立つことがある。

 

8 婚姻関係の破綻とは

不貞行為を理由とした損害賠償請求や離婚請求で必ず出てくる論点は、不貞行為があったときにすでに婚姻関係が破綻していたかどうかという争いである。つまり、不貞行為というのは夫婦の貞操義務を侵害するものだから、たとえ、籍の上では夫婦であっても、実質的に夫婦関係が破綻しているのであれば、守られるべき貞操義務は存在していないことになる。つまり、違法な男女関係とは言えないことになる。したがって、不貞行為を問われた相手方は、まず不貞行為があったか否かを争い、不貞行為などしていない、しているというのならそちらで証拠を出せと主張するだろう。そこで不貞行為の証拠となる写真等を突きつけられたとすると、相手方は、次に、男女関係があった事実は認めざるをえないけれども、そもそも婚姻関係はすでに破綻していたのだから違法性はない筈だと論点を移すだろう。

婚姻関係が破綻しているとはどういうことだろうか。

破綻というのは、婚姻生活が実質的に破綻していることをいう。しかし婚姻生活は外部からは破綻しているか否か簡単には判断できない。破綻が外部からみて一番はっきりしているのは、別居の有無である。夫婦は同居義務があるから、同居をせずに別居を

 開始すれば通常は破綻と認定される。この場合、裁判で重要視されるのが別居開始にいたる経過である。別居と言っても、夫の単身赴任がこれに当たらないことはあきらかである。では、実は単身赴任ではないのに、妻と別居したという既成事実を作りたい夫が、単身赴任だと妻をだまして別居した場合はどうだろうか。妻は単身赴任だと思っているわけだから、離れていても食事や洗濯、掃除などの心配もし、時には赴任先に出かけたり、手紙や写真を送ったりもするかもしれない。けれどもこの場合も破綻を示す別居ではない。その意味で別居開始に至る経過が吟味されるというわけである。

また、別居はしたものの、妻との協力、扶助義務は果たしており、かつ妻との間の男女関係もあった場合などは、たとえ別居の事実があっても、婚姻関係が「完全に」破綻しているとは認定されない。破綻とは「修復不可能な状態」をいう。

一番難しいのは、別居はしていないけれども同居していて家庭内別居状態だという場合などである。破綻を主張する方からは、当人達の意思、日常生活の状態などを具体的に検討して、やむを得ず同居はしているが、修復不可能な別居状態であると立証できるかが問題となる。破綻していないと主張する方からは、その反対の立証が必要となる。例えば、夫の食事を作っている、夫の上着や下着を洗濯している、夫の部屋を掃除している、一緒に旅行に行った、冠婚葬祭に夫婦で出席している等の事実を証拠を付けて主張することが大切だ。

同居をしていると、破綻が認められる可能性は低く、あるいは難しくなることは事実である。

 

9 損害賠償額について

損害賠償額の算定については、裁判所の側にはなんらかのスケールがあると言われているが、請求する方はそれが分かるわけではないから、既出の判例から自分達のケースと類似しているケースをさがして推測をするしか方法はない。いろいろな個別的事情があるし、判例の出た時期も裁判所もまちまちだから、確実なことはわからないのは事実である。また、判例を調べられるのは判決にいたったケースであり、裁判を提起しても途中で和解をして終了したケースは調べることができない。たとえば、芸能人のケースだと、高い金額が出ることが多いが、ほぼ和解で終了している。これはスキャンダルになるのを防ぎ、早期解決を目指すという当事者の意向が強いからである。かように和解になる事例には判決で得られるより高い金額でまとまる場合がある。

これらの事情を念頭においた上で、離婚における不貞行為の損害賠償の判例を検討することが必要である。

 

(1)  婚姻生活は15年、妻は家業の手伝い、子供3人。

夫は父の家業で働き、将来は父の後を継ぐ。

夫が愛人を作り、13年目から別居。

妻から離婚請求し、夫に200万円、愛人に100万円の慰謝料支払が認められた。

(水戸地裁昭和51年7月19日)

 

(2)  婚姻生活10年、共働き、別居3年

夫の度重なる不貞行為

夫に対し300万円の慰謝料支払が認められた。

(浦和地裁昭和61年8月4日)

 

(3)  婚姻生活は55年、妻は専業主婦、別居期間17年

夫は社長、愛人に子供が生まれ夫は認知。愛人宅に17年住む。

夫に1000万円、愛人に500万円の慰謝料支払が認められた。

(東京高裁昭和63年6月7日)

 

(4)  婚姻生活48年、子供なし、夫は複数の会社経営。

夫は女性と交際し、その女性と36年間同居、子供2人が生まれ、夫は認知。

夫に対し1500万円の慰謝料支払が認められた。

(東京高裁平成元年11月22日)(判時1330-48)

 

(5)  約2年間の不貞行為、離婚請求、夫に200万円の慰謝料支払が認められた。

(東京高裁平成3年7月16日)(判時1399-43)

 

(6)  婚姻生活約4年、子供2人

夫は職場の部下と不貞行為をしたが、期間は1年未満。妻からの慰謝料請求の内容証明郵便により相手は謝罪し、職場を退職し、実家に帰った。その後妻は不貞行為の相手に提訴。相手に50万円の慰謝料支払が認められた。

(東京地裁平成4年12月10日)

 

(7)  婚姻生活37年間、子供有

夫は18年目から愛人と同棲し、子供をもうけた。

愛人に対し、200万円の慰謝料支払が認められた。

(東京高裁平成10年12月21日)

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